「NICHIAではたらく」を知るマガジン

2025.05.01
【アカデミー科学技術賞】映画業界の発展に貢献したNICHIAのLD(半導体レーザー)

MEMBER
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第二部門 LD事業本部 LD開発部
Y.N.(2009年入社)
主に緑色LDの素子設計を担当。現在は、レーザー対応プロジェクターなどの用途向けに、光半導体技術を活用した製品の開発を主導。
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第二部門 LD事業本部 LD開発部
Y.N.(2006年入社)
主に青色LDの素子設計を担当。チップの発光効率の向上を目標に、構造や材料の最適化に取組む。
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第二部門 LD事業本部 LD開発部
T.H.(1999年入社)
主に青色チップの開発、リッジ構造や電極といったデバイスの設計および改良などを担当。
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第二部門 LD事業本部 LD開発部
T.M.(2001年入社)
製品の寿命に関係する信頼性技術の担当。チップの光を取り出す面を強化・改良などに取組む。
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第二部門 LD事業本部 LD開発部
K.K.(2007年入社)
気密性と放熱性を高いレベルで両立した高出力マルチチップLDパッケージ「OctoLas®」を開発。
※所属は2025年2月28日時点
それぞれの持てる知識と技術を結集して
本日は、映画界に貢献した重要な技術を⽣み出した企業‧技術者に対して、2024年に映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences: AMPAS)より授与された『アカデミー科学技術賞(第96回)』受賞者代表の皆さんにお集まりいただきました。まずは、皆さんの担当業務からお願いいたします。
Y.N.
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私は第二部門 LD事業本部に所属し、LD開発部第一課の課長として21名のメンバーを統括しています。複数のプロジェクトを同時に進めており、主な担当はLDの開発です。レーザー対応プロジェクターなどの用途向けに、光半導体技術を活用した製品の開発を行っています。
Y.N.
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私が第二部門 LD事業本部のLD開発部で担当しているのは、主に青色LDの素子設計です。具体的には、チップの発光効率の向上を目標に、構造や材料の最適化などの業務に取り組んでいます。
T.H.
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Y.N.さんと同じく、私も第二部門 LD事業本部のLD開発部の所属になります。主に青色チップの開発とリッジ構造や電極といったデバイスの設計を担当しました。チップの安定した発光特性を実現できるように改良を行っています。
T.M.
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私の所属は第二部門LD事業本部のLD開発部です。光半導体事業を担当する部門で、LDの開発に携わっています。主な業務である信頼性技術とは、わかりやすく言えば、製品の寿命に関係する分野のテクノロジーです。突然の故障やトラブルを防ぎ、長時間にわたって正常に発光させるため、チップの光を取り出す面を強化しています。
K.K.
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T.M.さんと同じLD開発部に所属しています。専門はチップを搭載するパッケージの開発です。チップが適切に動作するためには放熱対策が重要なのですが、気密性と放熱性との両立は簡単ではありません。できるだけ高い性能を持つ放熱構造の開発を目指しています。
驚きと喜びを同時にもたらした『アカデミー科学技術賞』
改めて今回の『アカデミー科学技術賞』を受賞した感想をお聞かせください。
T.H.
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実は『アカデミー賞』に『アカデミー科学技術賞』という部門があるのは、受賞して初めて知りました。驚きもありましたが、素直に嬉しかったですね。家族や同僚からも祝ってもらえましたし。特に甥っ子から「おっちゃんってすごかったんやな」と尊敬してもらえたことが印象に残っています(笑)。
T.M.
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私もT.H.さんと同じく『アカデミー科学技術賞』の存在は知りませんでした。でも『アカデミー賞』は誰も知っている有名な賞ですし、報道していただいてからは、家族や友人をはじめ、県内での反響が大きかったと思います。
K.K.
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そうなんですよね。いわゆる『アカデミー賞』といえば『主演男優賞』とか『助演女優賞』とか、まず俳優さんが受賞するイメージがあって。その中で『科学技術賞』がどんな位置付けにあるのかもわからなかったんですよ(笑)。実感が湧いたのは、ノミネートや受賞の連絡よりも、新聞の取材を受けたとき。「ああ、これは取材されるほどすごいことだったんだ」と感じました。
Y.N.
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2024年の1月中旬に、映画芸術科学アカデミー(AMPAS)の公式サイトでプレスリリースが出て。英文のメールで通知が来たんです。私も皆さんと同じく賞の存在も知らなかったため、K.K.さんと一緒で最初はまったく実感が湧きませんでした。出身地である鳥取の新聞にニュースが出て、家族や両親が喜んでくれたことが何より嬉しかったですね。
Y.N.
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業界の噂としては聞いたことがあったのですが、まさか自分たちの取組みが『アカデミー科学技術賞』にノミネートされ、受賞するとは思ってもいませんでした。しばらく音沙汰がなかったんですよ。何ヵ月か経って受賞が決まり、正式に発表された後は、社内でも話題になりましたね。サプライヤーの方々からも声をかけられる機会が増え、改めて多くの人が関わっていたこと、そして、なかなか表に出ない技術が高く評価された喜びがありました。
Y.N.さんは、2024年の2月23日に開催されたアカデミー映画博物館での授賞式にも、チームの代表として参加されましたよね。
Y.N.
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ドルビー・ラボラトリーズやIMAXコーポレーションなど、錚々たる企業の受賞者と壇上に並んでスピーチをし、とても緊張しました(笑)。業界の重要人物が一同に会し、互いの功績を称え合う姿が印象的でしたね。レーザープロジェクターの普及によって、NICHIAの技術が世界的に認知されていたこともわかり、開発チームの一人として大変光栄に思いました。
10年以上の試行錯誤が結実したレーザープロジェクションシステム
ありがとうございます。今回の受賞は、映画館⽤レーザープロジェクションシステムに搭載される⻘⾊‧緑⾊レーザー光源の開発貢献が評価されたものですが、その経緯について教えてください。
Y.N.
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映画芸術科学アカデミー(AMPAS)の取材でも聞かれましたが、もともと私たちが開発していたLDは、2000年くらいまではBlu-rayなどに使われる用途が主なものでした。ただ、マーケティングによって、次に必要とされるのは、プロジェクター用ではないかという意見は出ていたんですよ。NICHIAの開発トレンドでもあった発振波長の高効率化・長波長が「シネマ」という用途にぴったりでした。
Y.N.
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当時の映画業界では、撮影技術が進化する一方、映写技術の遅れが課題となっていました。ずっとプロジェクターにはランプ光源が使われていたんですが、それはレーザーで美しい階調表現の可能なものが存在しなかったから。新たな光源としてLDが期待されていましたが、実現は簡単ではありませんでした。製品として普及するのは2010年代半ばくらいのこと。そこから10年くらいかけて市場に浸透していったイメージですね。
今回の受賞は100名を超えるプロジェクトメンバーを代表としてということでしたが、それぞれのチームはどのように協働していたのでしょうか。
T.M.
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LDに関係している全部署が何らかの形で携わるプロジェクトでした。まず、事業企画本部のLD企画営業部がマーケットや顧客のニーズを調査・分析。私たちLD開発部がクライアントの要望に応じて設計・開発・評価試験を行い、LD技術部に移管します。そこでさらに改良を施した後、LD製造部で製造。開発・技術・製造、所属部署に関わらず LD事業部全体で、コストダウンや歩留り改善について検討しています。
T.M.
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さきほどY.N.さんから開発の経緯についてお話がありましたが、振り返ってみれば10年くらい経っているんですよね。途中でLEDの開発に異動したんですが、こちらに戻ってからも、ずっと改良を続けていました。
たとえば、私たちが開発したシネマ用LDの寿命は20,000時間以上あるんです。これは24時間連続点灯しても2年以上となりますが、本当にそれだけの耐久性があるのかどうかを証明するため、長期間の評価試験を行う必要がありました。
また、途中で駄目になったときのことを考えて、バックアップのプランを複数用意するなど、ロードマップどおりに製品化できるように動いていたら、あっという間に時間が経っていたという印象です。
シネマプロジェクターのLD光源の特徴
ありがとうございます。シネマプロジェクターのLD光源の特徴について、Y.N.さんとT.H.さんからご説明をお願いいたします。
Y.N.
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従来のランプ光源が発する光は、赤・青・緑という光の三原色を含んでいるものの、太陽と同じでさまざまな波長の光を出しており、画像がぼんやりする欠点がありました。対して、私たちが開発したLD光源は、光の三原色の純粋な波長の光だけを発するので、色の再現性がはるかに高いんです。
Y.N.
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高出力で非常に明るいLD光源は、はっきりとしたコントラストの映像表現が可能になります。T.M.さんもおっしゃっていましたが、寿命もランプ光源の約6,000時間に対して、LD光源は20,000時間以上。ほぼメンテナンスフリーで使用でき、省エネルギーかつ環境に配慮した製品になっています。
LD光源は電気を光に変換する際、かなりの割合が熱に変わってしまうんです。実はここがずっと問題になっていて、発熱量が高いと性能に影響が出てきます。当然、冷却が必要ですし、エネルギーとしてはロスが発生する――。青色LDチップの発光効率向上が、私の向き合ってきた大きな課題でした。
T.H.
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Y.N.さんの言うとおり、電気を光に変換する際に発生するロスは、頭の痛い問題の一つでしたね。私は青色チップのデバイス設計・開発を担当していましたが、製品化する段階でのコスト面にも苦労した記憶があります。研究によって新しい技術が生まれたとしても、それがそのまま製品化できるわけではありません。製造のしやすさと特性の良さの両立と言いますか、マーケットに適した形で提供できるような工夫も求められました。
K.K.さんはチップを搭載するパッケージの開発を担当されたとのことですが、特にどのような部分に注力されましたか?
K.K.
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チップが電気を光に変換する際の発熱に対して、私が担当したパッケージでは「いかに効率良く排熱できるか?」が重要なテーマでした。排熱が十分に機能しないと、チップの性能や寿命に大きな影響が出るからです。強い光を発するには、それだけのエネルギーが必要ですが、パワーが大きいほど熱も高くなっていく。そこをどうするかをひたすら考えていました。
K.K.
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さらに開発を困難にしていたのは、パッケージには気密性が求められる点です。完全気密封止と高放熱構造の両立は、そもそも矛盾しているところがあって(笑)。放熱性を高めるために熱伝導の良い材料を選ぶだけならば話は簡単なんですが、あちらを立てればこちらが立たず……という状態が、ずっと解決できずにいました。
結局、何とかそこが解決できそうなパッケージができるまでには3年近くの歳月が必要でした。専門のメーカーとやりとりしながら構造解析のシミュレーションをして、ひたすら試作と改良を繰り返し、やっと完成したのが高出力マルチチップLDパッケージ「OctoLas®」です。
K.K.
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これは今までのチップを1つだけ搭載できるCANパッケージと異なり、複数の高出力青色チップを一つのパッケージに集約したもの。気密性と排熱性を両立しつつ、可能な限り光源を小さくできたという点では、シネマ用プロジェクターの進化に貢献できたのではないかと思っています。
完璧な答えがなくても、一歩ずつ前進していく
最後に、今後の目標や挑戦したいこと、NICHIAの技術者を目指す方々へのメッセージをお願いいたします。
Y.N.
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LDにしかできない新たなソリューション、プロジェクター市場における展開は、引き続き考えていきたいんですが、個人的には黄色のLDを開発してみたいという気持ちがあります。まだまだ技術的な課題が多く、ビジネスとしての可能性も未知数です。それでも、光の三原色に黄色を加えることで、より自然な色表現が可能になると考えています。
研究や開発を行う部署と聞くと、専門知識が必要だと思われがちですが、実際は入社後に学びながら成長していく人がほとんどなんですよ。私自身も学生時代はプログラミングなど、情報系の勉強をしていました。専門外の分野だからこそ、新しいアプローチができますし、そこにチャレンジできる環境が整っているのは、NICHIAならではの強みの一つではないかと考えています。
T.M.
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プロジェクターに関しては、シネマだけではなく、スマートフォンなどを含むホームユース向けに展開していけたらいいなと思っています。映画館には敵わないまでも、もっと家で没入感のある体験が可能になるようなプロジェクターですね。以前、Blu-rayを搭載したプロジェクターの開発に携わったのですが、家庭で迫力ある美しい映像を楽しめるものを作りたいと考えています。
NICHIAでは、しっかりコミュニケーションができれば、若いうちからやりたいことに挑戦できる風土があります。話し合いながら理解を深め、周囲の意見を取り入れていけば、必ず良い製品ができるはず。チームで大きなことを成し遂げるには、そこが大切だと思います。
K.K.
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現在において、レーザープロジェクターは高い評価をいただいていますが、やがて成熟期を迎え、どうしても市場における売上は鈍化していきます。そのときに備えて、LDの新しい用途を見つけていきたいですね。金属加工用途かもしれないし、もっと性能の高いプロジェクターかもしれない。今は事業企画部のメンバーと話し合い、あらゆる可能性を探りながら進めています。
技術職を目指す方々へのメッセージは、LD開発部を率いるS.N.さんがよく口にする「技術開発に関する討論に上下関係はない」という言葉です。世界初のものつくりにキャリアの有無はあまり関係ないんですよ。
「やってみないとわからない」という考えが浸透しているので、新しいアイデアが否定されることはありません。特に新しい技術を生み出すには、今まで考えられていなかったアプローチが重要になるケースも多いんです。実際、若手の斬新なアイデアが成果につながることもありますから。そこはNICHIAの大きな強みだと感じています。
T.H.
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新しいLD技術の活用を考えていくというのはもちろんですが、私自身、LD光源の開発に携わっているにも関わらず、まだLD光源を搭載したプロジェクターを持っていないんですよ。そう考えると、やはりホームユースの普及率は高いとは言えない現状があります。地道な改良を積み重ねながらアップデートしていくことで、もっといろいろな人々に綺麗な映像を楽しんでもらえるように頑張りたいですね。
NICHIAで働くにあたり、大切なのは「やる気」と「根気」だと思っています。とにかく「やってみよう!」というチャレンジ精神と、あきらめずに継続して努力することが、世界一の技術や製品を生み出す原動力です。特別なスキルは必要ありません。日々の努力を厭わない人が結果を出しています。
Y.N.
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日本の映画館向けプロジェクターは、段階的にLD化が進んでいますが、まだまだ古い製品を修理しながら使い続けているところも少なくありません。今後はプロジェクターのメーカーや映画館向けのシステムを扱う企業などと連携しつつ、新たなアプローチで市場を開拓し、より多くの劇場で採用されるように進めていきたいと考えています。
また、個人的には、多くの方にLD技術の魅力を知ってもらいたいですね。LEDやEV向け電池材料が有名ですが、NICHIAのLDは世界最高の効率を誇り、高いシェアを占めている分野でもあります。世界一の製品に携わる環境で経験を積むことは、技術者にとって大きな成長につながるでしょう。
前例がないことにチャレンジし続けるには、教科書に載っていない知識やアプローチする力が必要です。単なる学問的な知識(ブック・スマート)に加えて、現場で試行錯誤しながら学び取る力(ストリート・スマート)が求められます。完璧な答えがない中で、少しでも前進できる方法を模索して進めていく――。それが世界に認められる技術の源泉だと考えています。