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研究/技術

2025.05.01

【プロジェクトストーリー】照明の新時代を切り拓く“価値ある光”への革新

第二部門
事業企画本部 照明企画部
部長原口 圭

2003年入社

※所属は2025年2月28日時点

急速なリプレースから始まった日本のLED化

NICHIAといえば、青色LEDの開発によって一躍有名になりましたが、その後もずっと改良を続け、LEDによる光の質を追求し続けている企業でもあります。きっかけはどのようなところにあったのですか?

従来の蛍光灯や電球からLEDへの移行は、2008年頃から本格的に進みました。その背景には大きく二つの要因があります。
一つはLEDの発光効率が向上し、蛍光灯と同等の性能を持つようになったこと。経済的な合理性が追いついたわけですね。もう一つは2011年3月11日に発生した東日本大震災です。この大災害を契機に、エネルギー消費の削減が社会全体の急務になりました。
特に顕著だったのが都会の高層ビルの照明です。大企業の照明から効率化・省エネルギー化を進めていく形で、急速にLEDに置き換わっていったんですよ。オフィスの蛍光灯に続き、住宅などで使われる電球などもLED化が進みましたが、あまりにもそのスピードが速かったため、ただ単に蛍光灯や電球をリプレースするだけというLED化になってしまったんです。せっかくLEDに変わったのに、照明の形も中身もそれほど変わらず……という残念な状態でした。
時代の要請でもあり、仕方がなかったのですが、もう少し緩やかな変化が許されていれば、LEDだからこそできる部分――。たとえば、光の質の追求をはじめ、照明器具のデザインや軽量化といったところですね。そこまで考え抜かれた照明へと変わっていったはずなんです。
NICHIAは、LED照明の持つ可能性について、ずっと考え続けています。一つは「より綺麗に、鮮やかに見える」「もっと健康に暮らす」という光の質そのものの進化。そして、軽くて小さいLEDの利点を生かした照明器具の変革。コンパクトかつデザインも自由になりますから、いろいろな用途が考えられます。それこそが、単なるリプレースではなく、LEDによる照明としての正しい進化ではないでしょうか。

 

困難を乗り越えた友情とチームの努力で生まれた新たな光

なるほど。そういった理由があったのですね。光の質を追求していくにあたり、原口さんたちが直面した技術的な課題は、どのようなものでしょうか?

そうですね。もっとも大きな課題は、演色性と発光効率のバランスを取ることでした。演色性とは、光源が照らす物体の色を、どの程度まで忠実に再現しているかを表す指標です。光源の性質によって、同じものでも色の見え方が変わってしまうわけですが、当時は「とにかく効率の良いLED照明に!」と社会全体が急いでいたため「演色性は発光効率の良い80でいい」という暗黙の了解ができてしまっていました。本音を言えば90くらいまで上げたかったのですが、発光効率が20%近く下がってしまうんですね。当時は問題を解決できる技術がなかったこともあり、発光効率を優先するしかありませんでした。

 

まずは効率優先だった。そこから、LEDの持つポテンシャルである質の部分へフォーカスしていったということですね。

おっしゃるとおりです。照明の本質ともいえるクオリティーを高めるため、GE(General Electric Company)社と協業したプロジェクトが進められつつありました。私が参画した当時は、アメリカのデトロイトに応用技術者として駐在していたのですが、ブレイクスルーとなる新しい技術こそ、NICHIAで実現しなければいけないなと。そこで生まれたのが、効率をほとんど落とすことなく、光の質を高める画期的な蛍光体とLEDの技術を組み合わせ、高演色と高発光効率を両立させた「H6シリーズ」でした。これは蛍光体技術のチームをはじめ、同様に高品質な見え方を追求していた液晶バックライトチーム、チップやパッケージ、品質管理や製造、すべての部署の努力の結晶です。

 

デトロイト駐在時代の印象深い思い出はどんなものですか?

当時は、どうやって鍵になる蛍光体の信頼性をLEDで確保すべきか、GE社のバングラデシュ人エンジニアとよく議論になりました。お互いに言葉の壁もありましたし、音質が悪く、聞こえにくい電話でやりとりしていたんですよ(笑)。それでも、連絡や打ち合わせを重ねながら努力をし、技術的な部分や品質的な問題がクリアできた頃には、大切な友人の一人になっていました。彼が徳島へ来たときには一緒に釣りにも出かけたんです。釣った魚を食べながらお酒を酌み交わす仲にまでなったのは、生涯忘れられない思い出ですね。

 

健やかな毎日、楽しさや喜びをもたらす新時代の照明

原口さんたちが実現した技術によって、LEDによる光の質が大きく向上しつつありますが、そこで生まれたのはどのような照明ですか?

「H6シリーズ」は赤色蛍光体を中心に発光スペクトルを最適化し、もともとはトレードオフの関係にあった演色性と発光効率を高いレベルで両立させたものですが、そこから新しい価値にアプローチできるようになりました。
たとえば“Wellness(健康)”。質の良い光は人を健康にすることも可能です。現代人の多くが抱える不眠や体の不調などの原因のうち、かなりの部分が自然光を十分に浴びることが難しいライフスタイルに起因すると考えられています。本来、人は夜に眠り、朝に目覚めるとき、太陽の光を浴びて暮らしていました。
人は朝日を浴びると、大脳に「幸せのホルモン」とも呼ばれるセロトニンの分泌によって脳の働きが活発になり、精神状態が安定することがわかっています。また、安心感や平常心が得られるため、作業効率が上がるとともにミスが減少。老化を促す活性酵素を除去してくれるという研究結果も出ています。
これは朝日に多く含まれる480nmの光のおかげなのですが、この480nmという波長の光を効果的に補充できる空色(Azure色)のLEDおよび、それを用いた調色・調スペクトルソリューションが「Dynasolis™」です。約24時間周期で体内環境を整える「概日リズム(サーカディアンリズム)」に配慮し、体内時計の適正化をサポートする新しい屋内照明のかたちだといえるでしょう。
今までの蛍光灯やLEDのように、単に明るく光るだけではなく、自然光に近い「人を元気にする」「健康にする」という機能を付加することが、本来のLED照明の進化する道の一つなのかなと考えています。また、機能という意味では「Optisolis™」という製品もあります。自然光のスペクトルにできるだけ近づけることで、あらゆる色味を自然に再現する高演色白色LEDです。正確に色を扱う必要がある印刷や塗装の現場、心地良い光が好まれる宝飾店、そして、UV放射がほとんど含まれないことから、展示物の紫外線劣化を最小限に抑えたい美術館や博物館などでも採用されています。

 

 

光の質とともに機能を付加していく新時代の照明ですね。“Wellness(健康)”といえば、高齢者向けの照明用LEDも開発されているとか。

「クリアホワイト色LED」ですね。人は加齢によって眼球の奥にある水晶体が黄変化し、450~550nmの短波光(青色光)を感知しにくくなるため、若い頃と比べると対象物が黄ばんで見えるようになります。白く明るい照明を使用していても、新聞や雑誌、本が読みにくくなったり、料理もおいしそうに見えなくなっていく。若い人とは見えている世界がかなり違うんですね。日々を重ねるごとに、知らず知らず好奇心が持てなくなっていったり、味覚や食欲が減退する理由の一つが、そうした部分にある可能性も少なくありません。
当社の「クリアホワイト色LED」は、発光スペクトルを工夫することで、対象物が黄ばんで見えることを防ぎ、ハイコントラストでくっきりとした見えやすさをサポートします。超高齢社会に突入し、約3人に1人が高齢者といわれる今、元気なお年寄りが増えれば増えるほど、豊かな社会になると考えているんですね。若い頃のように見えれば、きっと暮らしは楽しくなる――。これも光の質を向上させ、楽しさや喜びを増やしていくというアプローチです。

 

常に可能性を模索し、新たな価値の創造へ

照明の第1世代は「火」、第2世代は「白熱電球」、第3世代は「蛍光灯」、そして、第4世代が「LED」という見方もありますが、NICHIAが実現しているのは、さらにその進化系というように見えます。

LEDの可能性は、まだまだ広がっています。私の夢なのですが、今後は一人ひとりのライフスタイルに適応した照明なども実現させたいですね。たとえば、AI(人工知能)やセンシング技術と組み合わせることで、ユーザーの年齢や活動に応じて、最適な照明環境を自動でコントロールする“パーソナライズされた光”も、技術的には不可能ではないところまで来ています。オフィスなどでは、そこで働く人の動きや作業内容に合わせた照明制御を行うことで、快適性を向上させつつ、エネルギー消費を抑えたりもできるようになるでしょう。
ただ、それらの未来を実現するには、私たちだけではなく、業界全体の話になります。設計事務所や照明デザイナーなど、それぞれのレイヤーにおいて「LEDのできること」「NICHIAの見ているもの」を周知し、協働していくことが大切だと考えています。ただ、ユーザーの方々まで含めた価値観の共有ができれば、それほど遠くない将来に、そういう世の中が訪れるのではないでしょうか。

 

ありがとうございます。最後にNICHIAの技術者を目指す方々へメッセージをお願いいたします。

私たちは、光の質の追求や機能の付加による新時代の照明を“Wellness(健康)”、生きる喜びにつながる“Joy(楽しさ)”、そして、省エネルギー化や省資源、施工の手間を省く“Sustainability(持続可能性)”という3本の柱を中心に考えています。LEDならではの、薄くて軽く、小型でクオリティーが高く、さまざまな機能を持つ照明を作っていきたいですね。
しかし、LEDの可能性は、まだまだ眠っているかもしれません。そういう意味では、4本目、5本目の柱を見つけられるような人と一緒に働きたいと考えています。照明の新たな付加価値でもいいし、そうじゃない用途でもいい――。むしろ、誰も思いつかなかったところを開拓できる人こそ、NICHIAが求めている人かもしれません。

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